予告編

 

「心の再生ボタン」 本編10分

 

 

 

 

小説動画 『心の再生ボタン』 作・前田達哉

小説1

東京にある青赤通り。


加奈子はいつものように携帯電話で友達と話しながら
この通りを歩いている。

2011年5月3日の午後2時頃の事だ。

 

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小説2

そこにいた男を疑いの目で見る加奈子。

「確かに、もっとニヤニヤした怪しい男だった」

そこにいた男は弱弱しく、襲ってくる雰囲気はなかった。
たった一つの質問を加奈子に投げかけるのが精一杯であった。

「襲われたの?」

「そう確か怪しい男が迫って来て、とっさに・・・そしたらココに・・・ココ何処?」

記憶を整理することで今の現実が明確になった。
加奈子は真っ赤な部屋でその男と2人きりで存在していた。

「ちょっと、どこから出れるの、この部屋?」

出口を探すが扉も窓もない。
全て赤い壁で閉ざされてる。

「出口なんてないよ、この部屋には」

男は小さな声で言った。

「はぁ?」

加奈子の大きな声に脅えながらも
男は話を続けた。

「ココは『一時停止の部屋』
君はとっさに心の一時停止ボタンを押したんだ。
だから君は今、一時停止状態なんだ」

「何言ってんの、動いてるじゃん」
加奈子はブラブラさせて見せた。

「時間は止まっている」
男はそっと胸に手を当てて見せた。

その動きに誘われるよう加奈子も胸に手を当てた。
驚くことに心臓は動いていない。
脈も止まっていた。

左腕に付けていた腕時計も止まっていたが
もはやそんな事は問題ではなかった。

全てが止まっている。
その男が言った事が本当である事を悟るのに時間は必要としなかった。

「そんな・・・ちょっと、どうすればいいのよ」

「心の再生ボタンを押す、そういうイメージを抱けば元の世界に戻れるよ」

 

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小説3

ふと気になった事を加奈子は正治に問いかけた。

「って、あんたは何でこんな所にずっといるのよ?」

「飼ってた犬が死んだ、いじめられてる僕の唯一の友達だったのに、
生きてても何も良いことなし、
でも死ぬのも怖し、だからここにいるんだ・・・」

正治が他人に少しだけ心を開いた瞬間だったが
加奈子はそんな答えに全く興味がなく
動くはずのない携帯電話で助けを呼ぼうと必死だった。

「みんな僕を無視するんだ」
正治は何かを思い出すかのように嘆いた。

 

そんな時、加奈子はある事に気付いた。
「そうだ、あなたずっとここにいるって言ったわよね、どれくらいいるの?」

「さぁ、ここでは時計も、朝も夜もないから、」

「じゃあ、あなたは、いつ時間を停めたの?」

「2010年の9月だったかな・・・」

 

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小説4

驚きの声が赤い空間を響かせた。

「でも加奈子さんだって、その中田さんと結婚できるのは自分だけだという強い意志があるんじゃ・・・」

必死に問いかける正治に冷静に加奈子が答えた。

「中田君はこのままだときっと恵美とくっ付く・・・」

「じゃあ、どうするんですか?」

正治の質問は答えなど無いという諦めの声だった。

しかし、加奈子はためらいも無く答えた。

「奪い取るのよ!」

「え〜!?」

「いいのよ、中田君にしたら
どっちと結婚しても幸せなんだから!」

完全ポジティブな加奈子に圧倒されながらも
正治は問いかけた。

「でも、自分じゃなきゃダメって人の方が・・・」

 

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